「ラビ……何やってるんだ」
「唇にすると怒られるから、せめてここにするんさ」
ラビは重たげに瞼を落とし、流した視線を神田に注いだ。
「ユウと本物のキス、したいなァ…」
「お前の言う本物ってのは舌を挿れるアレの事か?」
竹を割ったような神田に問われ、ラビは苦笑しつつ舌先を出す。
「舌を通じてわかる事もあるさ。けど、噛み切られちゃ何も言えなくなる」
「本気で噛んだ覚えはねェよ」
「そりゃ本気だったら死んでるさ」
ラビは口元に寄せたままの指に軽く口付け、上体を下げて上目遣いで神田を捉えた。
「いつになったら先に進めるんさ」
「……さあな」
ラビはその答えにめげる事無く、それでも未練たらしく指にキスを送り続ける。
向けられる冷たい横顔に照れを見出せば、それはどこまでも愛しく思えた。
「傷、治るの少し遅くなったって噂聞いて心配だったんさ。…ほんと?」
おもむろに問われた神田は、手を預けたまま瞠目する。
「───誰がそんなこと言ってんだ。デマに決まってんだろ」
「そんならいいんさ……けど治ると思ってあんま無茶すんなよ、無制限じゃねェんだし…。他には何か変わった事なかったか?」
「ああ、別に……」
太陽が雲に覆われたように表情を曇らせ、ラビは神田の手を放して肩を抱き寄せる。
彼にそうされる事で、神田はふと先程のコムイの手を想い出した。
「そう言えば、一つおかしな事がある」
「何、どんな事?」
神田が顔を上げて明瞭に言うので、ラビは心配と好奇心の混じる目を向ける。
首を傾げて問いかければ、頭の中を整理しているらしい神田の…珍しく「頭を使っている顔」が見て取れた。
「近頃、体がおかしいんだ。それも決まって夕食後に……教団内でのみ起きる」
「おかしいって…どうおかしいんだよ?」
体の事と聞いて好奇心は消え失せ、ラビは身を乗り出して心配そうに眉を寄せる。
「そんな顔をするな。別に具合が悪くなるとか、そういう事じゃない。むしろ健康的……」
神田はそこまで言ってはたと口を噤み、一文字に結んだまま静止した。
「むしろ健康的に……何?」
「いや、食後に体が…どうも元気になるらしい」
「はぁ?」
「……何でも無い。ただそれだけだ…」
ラビは目の前で色付いて行く頬を注視し、首を左右交互に傾けながら頭を捻る。
それでも答えには辿り着けず、元気に六幻を振り回す神田の姿を浮かべるばかりだった。
「おかしな事ってほんとにそれだけ?」
「あともう一つ。俺がそうなった時、何故かいつもコムイが部屋にやって来る」
「コムイがぁ!?」
ラビはその名に露骨に嫌な顔をして、抱いている神田の肩を揺さぶる。
「まさか部屋に入れたりしてねェだろうなっ」
「してねェよ」
「いいか、アイツは間違いなくお前を狙ってるからな。部屋に入れたり風呂で一緒になったりしちゃ絶対ダメさ」
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