「狙う? 俺を狙ってどうするんだ?」
「好きって事だよ、ラブだよラブッ!」
「……コムイはリナリーが好きなんじゃないのか?」
「妹は妹だろっ、くそー俺が居ない間にユウにちょっかい出すなんてっ!」

 ラビはベッドからウサギのように跳ね上がり、石の床の上で地団駄を踏んだ。

「いっそお前は俺のもんだって言ってやりたいさっ」
「……お前の物になった覚えはねェよ」
「せめて…っ…せめて恋人だって言うくらいはいいだろっ!? でもな、でもやっぱり言えないんさっ」
「───何故だ?」

 座ったまま問われたラビは勢い良く振り返り、ターバンで立ち上がった赤毛を掻き乱す。

「赴任地離されて嫌がらせされんのがオチさっ!」
「……なるほど」
「けど…っ…もし今度コムイがここに来たら無線ゴーレムで俺に知らせろ。俺達の関係は伏せつつうまいこと追っ払ってやるさ! 明日明後日はホームに居るし、お前の為ならたとえ大元帥と喋ってても飛んで来るさっ」



 神田はラビの言葉に頷くべきか迷いながら、おかしな症状が起きる頻度を考える。
 それはかなり頻繁な物だったので、ラビが居る間に起きて…またコムイがやって来る気がしていた。

 特に何も言わずに首を縦に振ると、ラビはどこか嬉しげに抱きついて来る。
 赤い髪には森の匂いが移っており、濃い緑のイメージが湧いた。

「なぁ…今夜は泊まっていい?」
「自分の部屋で寝ろ」

 神田は彼の抱擁を容認しながらも、決して自分から手を触れはしない。
 それでも炎のように立ち上がる髪を見ていると、指先が順番に浮き上がった。

「何もしないさ」
「………」
「俺が約束破った事なんてなかっただろ? な、絶対何もしないから…いいだろ?」

 頬を摺り寄せて来るラビの耳元に溜息を届け、神田は僅かに頷く。

 彼が何もして来ない事などわかっていて……疑う気持ちなど欠片も無かった。



 任務から戻ったばかりのラビは疲れてそのまま寝入ってしまい、神田は枕に頬杖をつきながらその寝顔を眺めていた。
 今がチャンスとばかり、髪を掻き乱したり頬の肉をひっぱったり、挙句は口を塞いで鼻を抓んだりと…あれこれやり尽くす。
 一度寝てしまうと殺気を感じない限り起きないラビを弄り倒し、最後にそっと頬を撫でた。
 日焼けした肌は掌に吸い付くように滑らかで、寝息を零す唇は輪郭がくっきりと見て取れる。
 神田は枕についた肘はそのままに、顔だけを浮かせた。
 そしてラビの唇に向けて沈め、彼の顔に掛かった黒髪を自分の肩に戻す。

 彼がして来るキスの……数倍長いキスをした。

 それでもラビは目覚めず、神田は強かに舌を打つ。
 更にそれだけでは飽き足らず、彼の額を人差し指で思い切り弾いた。

「…っ…てっ…!」

 短く痛みを訴えつつも目を明ける事無く…ラビはくたりと眠りに戻ってしまう。

「バカが。ちょっと噛まれたくらいでビビッてんじゃねェよ」

 神田はそう言ってラビの足に蹴りを入れ、ベッドの際まで押し出してから背を向けた。
 不満を訴える背中を気付かせる事は出来なかったが、何やら零している彼の寝言が聞こえて来る。

 それが自分の名だと気付けば……不満も薄れて心地良く眠れるというものだった。

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HOUSEKI-HIME N