翌日の夕食時…ラビはコムイや大元帥に呼ばれホーム内を忙しなく動き回っており、神田はいつも通り一人で蕎麦を食べた。いくら蕎麦好きと言っても毎晩必ずという訳では無かったが、蕎麦率は相当に高い。
神田は蕎麦を完食して箸を戻しながら「そう言えば昨夜も蕎麦だった…」と思い返した。
───待てよ…例の症状が起きるのは、蕎麦を食べた後のような気がする…。
残った蕎麦つゆを見下ろしつつ、行儀悪くテーブルに肘をついて記憶を辿れば、やはり気のせいでは無いように思えて来た。
考える事は苦手なのでほどほどにして、神田はスッとその場を離れる。
高く上げたポニーテールの揺らぎに八方から熱い視線が送られている事など気付きもせず、トレイを手に一直線に調理場のジェリーの元に向かった。
「ジェリー」
声を掛けると、料理長のジェリーはボウルを抱きかかえながら顔を出す。
「アラん!? 神田くんたらどうしたの? 珍しくおかわりかしら?」
「お前に聞きたい事がある」
「アラなぁに?」
ジェリーは巨体を屈めて神田の目線に合わせ、上機嫌で首を傾げた。
「ここで蕎麦を食うと……体に変調を来たす気がする」
「あら美味しくなかったかしら?」
「そういう事じゃない。お前の打つ蕎麦は結構うまい」
「あら嬉しいv でも………そうねェ、心当たりならあるわよ」
ジェリーは更に「ちょっと待ってて」と言うと、冷蔵庫から「秘蔵・神田くん専用つゆ」と書かれたボトルを持って来る。中には黒い液体が入っており、半分ほど残っていた。
「これね、アタシが精魂込めて作った蕎麦つゆなんだけど…コムイがね、これを出す時に栄養剤を混ぜろって言うのよ。勝手なこと言うんじゃないわよって怒ったのよアタシ。でもコムイの言う通り無味無臭で味に変化は無かったし、神田くんの体に合わせて調合した物だって言うから毎度入れるようにしてたの」
「……栄養剤!?」
「でも体に変調を来たすなんて…体質に合わなかったのかしら? コムイも当てにならないわねェ」
「───コムイの奴…っ…!」
神田は六幻の柄を握り締め、奥歯を噛み締めてギリギリと鳴らす。
「ああそうそう、受け取った栄養剤は今日の分で最後だったのよ。コムイはまた新しいのを持って来るかしら?」
「ジェリー、コムイが何か持って来ても絶対に入れるな」
「ええわかったわ。何だかごめんなさいね」
「お前が悪いわけじゃない。蕎麦つゆもうまかった」
「アラんv」
神田はしなを作るジェリーに向かい、黙ってトレイを差し出そうとする。
「ユウ〜!」
するとそこに、ラビが嬉々とした声を上げてやって来た。
手を振りながら調理場に駆け寄った彼は、神田のトレイを覗き込んで残念そうな顔をする。
「もう食っちまったのか。俺やっと仕事終わったんさ…」
一緒に食べたかったと言わんばかりなラビの前で、神田は残した蕎麦つゆをじっと見詰めていた。
「どうしたんさ?」
「……今夜も泊まるのか?」
つゆから視線を外さず問えば、ラビはジェリーの事を気にしながら真っ赤に頬を染める。
「と、泊まっていいならそりゃもちろんっ!」
勢い付きながらも声を潜めている彼の前で、神田は蕎麦猪口を引っ掴んだ。
そして残りのそれを立ったままゴクゴクと飲み干す。
「お、おいユウ……」
神田はプハッとやってそれをトレイに戻し、ジェリーに向かって差し出した。
「馳走になったな」
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