面食らっていたジェリーを置いて、神田は食堂を後にする。「泊まるのか?」と聞いておきながら自分の部屋には向かわず、大股で廊下を進んで行った。
 ラビは石廊下を小走りでついて行き、途中何度か声を掛けたが…神田の向かっている先が自分の部屋だと気付いて押し黙る。

 木の扉を前にして息を上げたまま…神田の顔を真っ直ぐに見詰めた。

「俺の部屋…」
「鍵を開けろ」
「な、何でさ……何でここに…」
「コムイが来たら面倒だろ」

 ラビは目を瞬かせながらも急いで鍵を開け、神田を迎え入れる。
 その顔には興奮と期待が張り付き、緊張も手伝って手足はぎくしゃくと動いていた。

 滅多にホームに戻らないラビの部屋は、神田の部屋に引けを取らないほど私物が少ない。
 彼らしい色も何も出ていない殺風景な室内を見渡し、神田はおもむろにベッドに腰掛けた。

「ユウ…一体どうしたんさ」
「昨日言っただろ。俺は夕食後に元気になる」
「げ、元気って…?」

 神田は今の所変化の無い体を見下ろして、団服のボタンを外して行く。
 袖は通したまま中に着ていたシャツに触れ、そのボタンもゆっくりと外し…目の前で動揺しているラビを見上げた。

「体の一部が元気になる」
「───い、一部って……もしかして…っ…」
「だが俺は剣士だ。見苦しい真似は出来ねェ……」

 だからこそ苦しい…とは口にしないまでも、神田はその症状が出る度に悶えた夜を想う。

 それをぶつけて良い相手……むしろ、ぶつけてしまいたい相手は唯一人だった。

「ユウ……」
「今なら、噛み付かないかもな」

 薄く笑って言った神田の前で、ラビは緊張で固まった体をゆっくりと動かす。
 そして膝からガクリと折れると、床に座り込んだ。

「───どうした?」
「突然…念願叶っちゃいそうで……力が…っ…」
「情けねェ。日本じゃスエゼン食わぬは男の恥って言うんだぜ」
「わ、わかんないさ。……日本語?」
「何て言ったらいい……。まな板の上の鯉…ってわかるか?」
「な、何となく……けどユウはピラニア…」

 そう言ったラビは神田の背からスラッと伸びて来た六幻に鼻先を突かれそうになり、ゴクリと息を呑む。

「やるかやらねーのかっ」
「や、やりますっ! やらせていただきますっ!!」

 ラビは六幻の切っ先を見て寄り目になりながらも、確実に団服を脱いで行く。
 そして最後の一枚まで脱ぎ終えると部屋の入口まで歩いて行き、照明を落とした。



「ユウ……ほんとに…」
「───もうすぐ、あの症状が……波がやって来る」
「波?」

 目は闇に慣れず、互いのシルエットさえ見えない中で…二人は声を頼りに指先を触れ合わせる。

「来る前に、お前が起こせ……」
「よく…わかんないさ」

 長年の想いが成就する時を向かえ、ラビは感極まって言葉すら上手く出ず…それでもただ求めるままに、神田の肌に触れた。
 闇の中でもその白さは瞼の奥に浮かび上がり、胸のどの位置に梵字があるかまで正確にわかる。
 指先で字を辿る事さえ出来た。

「……っ…ぁ……」
「ユウ…ずっとこうしたかったんさ……」
「だったら……噛み付かれても襲って来いよ」

 神田はそう言って、ラビのターバンの端を噛む。顎を上げてそれを頭から抜くと、シーツの上に放った。

 ふわりと揺れる赤毛に頬を寄せれば、首筋を柔らに吸われる。

「……んっ…っ…!」

07>



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