肌が色付いて、体温が高まって、ベッドに崩れる体は次第に密着度を増して行った。
自然と惹かれる唇は重なり、同時にそっと開いて舌先を触れ合わせる。
「…っ…あっ……っ…んっ……」
「……ハァ……ッ…ユゥ…ユウ……ッ…」
神田は心臓が頭の中心に移動して来たような感覚に目を細め、響き渡る鼓動をうるさい程に感じていた。
───薬が……効いて来た……あの波が…っ……
ラビの手が胸に、そして団服やシャツを完全に剥がして背中や腰に来て…神田は肩を大きく震わせる。
「……ぁ……ビ……ッ……」
いつしか呼吸ばかり漏れて互いに言葉が出なくなり、闇に紛れて春情に染まる頬を緩めた。
零れる微笑の中でキスを繰り返し、朝までの長い時間を想う。
性急に進みたい波と、ゆっくりと抱き合いたい感情が入り混じって……果てしなく長い口付けを交わした。
窓がカタカタと小刻みに音を立て、外の風を感じさせる。
厚い雲が動いたらしく、月明かりが僅かに射した。
一糸纏わぬ神田の肌が青白く浮き上がり、ラビは感嘆の余り目を見張る。
正に東洋の真珠のようで、上気してしっとりと濡れ始めている様がいかにも美しかった。
ラビはようやく手にした肌に丁寧に触れ、身を伏せて足の甲にキスを捧げる。
「ユウ…俺は幸せもんさ…」
陶然と零すラビの囁きに、神田は艶麗な肢体をひくつかせた。
婀娜めく息を漏らしながら、ラビの髪に指を絡める。
そして、笑みの浮かぶ唇をそっと開いた。
「───ラビ……今夜の波は…特別凄い……」
その頃、食堂では……。
「ジェリーちゃ〜ん」
ジェリーは調理場の片付けをしながらその声に振り返り、アイアンの柵越しに半ベソを掻いている親友の姿を目にした。
「アラ、コムイじゃない。どうしたのぉ?」
「神田くんが部屋に居ないよぉ〜、ほんとにお蕎麦食べたの?」
コムイは甘ったれた声を出しながらも柵に詰め寄り、ベレー帽を悔しげに握り締める。
「食べたわよ。でも例の栄養剤が気に入らなかったみたいだし、アンタ嫌われてるんじゃない? 諦めなさいよ」
「えっ!? 薬のこと神田くんにバラしちゃったの!?」
「バレちゃったのよ。だいたい秘密だなんて聞いてないわよ」
ジェリーは唇を尖らせながら言うと、サングラスの上にある眉を思い切り寄せた。
「アンタ、まさかアタシに妙な悪さの片棒担がせてるんじゃないでしょうね?」
「えっ…っ…い、いやぁそんな事は全然。あれは本当にいい薬だしっ!」
コムイは怯みつつも自分を納得させ、大きく頷いてからポケットに手を突っ込む。
そして薬の入った袋を調理場に向けてドンと差し出した。
「これ、新しいの作って来たからジェリーちゃんよろしく」
「いやぁよ、もう入れないって神田くんと約束しちゃったもの」
「えぇっ!? ダメだよ、せっかく僕が更に強力な媚薬を調合して…っ…!」
「………媚薬?」
ジェリーの怪訝な顔を前にコムイは顔を青くして、持って来た袋を抱えたままそそくさと後退る。
「ちょっと待ちなさいよコムイッ! 一体どういう事なのっ!?」
「何でも無いよ、忘れて! じゃあね、おやすみジェリーちゃんっ!」
コムイはそのまま慌しく食堂を後にし、ジェリーは鉄拳のやり場を無くして青筋を立てた。
「………ったく、しょーのない男ねェ…」
彼は呆れてそう零しながら、調理場のスタッフと共に再び片付けを始める。
すると……調理台のすぐ下に、白い紙の包みが落ちているのに気付いた。
「アラ…これは……」
ジェリーは大きな手でそれを抓み上げ、照明に翳す。
透ける薬袋紙の中で粉薬は斜めになり、ジェリーは失態を反省しつつ苦笑した。
「嫌だわアタシったら……今日の分を入れ忘れてたのね」
Fin.
Novel>