八月十日、エクソシスト総本部、黒の教団。
ラビは食堂の椅子に腰掛け、足を投げ出しながら悶々としていた。
箸をくわえつつ、どこが良いのかいまいち魅力のわからない蕎麦を前にしている。
「随分ご機嫌斜めですね。しかもお蕎麦なんて珍しい」
食堂は昼食時の嵐が過ぎ去り閑散としていたが、そんな時間を狙ってやって来るアレンに声を掛けられた。
アレンは一人で居たいからという訳では無く、テーブルの大半を占領してしまう事を遠慮して、常々空いている時間を狙っている。
ラビはズラリと並べられた万国料理を横目で見てから、それを短時間で平らげるであろうアレンを見上げた。
「ユウが帰って来ないから、せめて蕎麦でもと思ったんさ」
「やだなそれ…なんだか淋し過ぎますよ」
覇気の無いラビの答えに苦笑しつつ、アレンは彼の横に腰掛ける。
「ほんとは今日帰って来る筈だったんさ」
「神田はロンドンに行ってるんですよね。任務が終わったのにまだ戻れないんですか?」
グラタンを前に大きなスプーンを手にしたアレンは、突然ドンッ!とテーブルが揺れた事に仰天した。
すぐ横では、テーブルを打ったラビの拳が震えている。
「コムイの奴が…っ…!」
「コ、コムイさんがどうかしたんですか?」
ラビは残った蕎麦を見詰めつつ、泣き出したい思いを噛み締めて押し黙った。
「ラビ…一体何が…」
「コムイの奴がユウをそのまま次の赴任地へ…っ…」
そう言うなり、ラビは右手の箸を木っ端微塵に砕く。
「それは…また随分とハードですね。ロンドンなんて近いんだし、一度くらいホームに戻してあげればいいのに…」
「そうさっ、俺もアレンも他のエクソシストも居んのにどうしてユウばっか働かせるんさっ! 待遇不満っ、超不満さ!」
ラビは折れた箸をトレイに放ると、足先をバタバタと浮かせながら不満だ不満だと何度も繰り返した。
「ラ、ラビ落ち着いて…っ…」
「今日は………だったのに……」
呟きは聞き取れないほど小さな物で、アレンは小首を傾げながらラビに詰め寄る。
「今日は…何ですか? 今何か言いました?」
「いや、何でも無いさ……そんなんこの状況下でどうこう言っていいもんでも無いさ…」
ラビはすっかり気落ちして、トレイを持ち上げながらおもむろに立ち上がった。
「ラビ…大丈夫ですか?」
「うん、ごめんなテーブル揺らして」
「大丈夫ですよ。でも本当に元気出して下さいね、神田もきっと…ラビに会いたかったと思いますよ」
既に調理場に足を向けていたラビは、その言葉に振り返る。
「アレン……」
「そ、そんな泣きそうな顔しないでっ。きっと次の任務はすぐ終わりますよ!」
アレンは自分でもいい加減な事を言っているな…と感じながらも無理に笑ったが、返って来た表情は大層酷い物だった。
「………次は地球の裏側なんさ」
ラビはそれだけ言って、暗雲を背負いながら鈍重に歩き出す。
「ラビ……」
残ったアレンは彼の淋しさに触れて、その背を目で追い続ける事も出来なかった。
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