遅い昼食後、ラビは何をする気力も無く、自室のベッドに転がっていた。
陽は緩やかに落ち始め、ラビの髪と同じ色に空を染めて行く。
「ユウ…」
愛しい人は…その色を見て少しでも自分の事を想い出してくれるだろうか…と、そんな甘い願いを抱きつつ、ラビは瞼を閉じた。
───眠れば一日は早い……お前が居ない誕生日なら、とっとと終わった方がスッキリするさ……
瞼に夕日の熱を感じれば、じわりと身の内までそれが染みて来る。
ラビは唇を噛みながら、龍のウロコ模様のターバンをいくらか下ろした。
黒い生地で目元は隠れ、陽は遮られる。
そうして赤く染まった部屋の中に闇を作り出し、故意の眠りに着いた。
「ラビ…ラビ起きろ」
薄い眠りの中で…極めて潔くも扇情的な声を聞いた気がして……ラビはそっと目を明ける。
けれど、細く明いた目に映るのは真っ暗な闇だった。
夢か……と判断して再び目を瞑ったラビは、アイマスク状になっていたターバンをグイと下ろされる。
同時に見開いた左目を、痛いばかりの西日が貫いた。
「…ぅわ…眩し…っ…」
そしてその光の中に、黒い影を見る。
「起きろ」
「───ユウ?」
目が眩んでその姿はまだ捉えられなかったが、声を聞いて…そして願望を込めて問う。
相手は返事をしなかったが、ベッドに腰掛けていた影は次第に晴れて行き、想い描いた通りの姿を見せる。
高く結い上げた髪は団服の肩に流れ、揃った前髪の下に切れ上がった猫目が見えた。
長い睫も輝く瞳も上質な黒で、主張し過ぎない鼻梁の下には艶めく膨らみがある。
薄桃の筈のそれは、夕日を受けて黄みを帯びて見え…まるで蜂蜜のようだった。
「ユウ……どうして……」
夢を見ているのかと疑うばかりで声がうまく出せず、ラビはベッドに張り付いたまま身を起こすのも躊躇う。
下手に動けばこの夢が覚めてしまうのでは…と、恐れている事を自覚しながら、それでも僅かに手を伸ばした。
触れたのは、座っている神田の膝。
団服の表面は部分的にテカテカと光って、乾いた血液が付着しているのがわかる。
ラビはそのリアルな手触りに顔を上げて瞠目した。
「……本物か?」
「ああ、寝惚けてる暇はねェぞ。ここに居られるのは一時間だけだ」
その言葉に、最早夢とうつつを彷徨っている場合ではないと判断し、ラビは思い切り体を起こす。
ターバンは首まで下がり、赤い髪が頬に向けて流れ落ちた。
「ユウ、どうして…っ……」
「トロい奴が居て列車に乗り遅れた。次まで時間があったからな」
素っ気無く言った神田の言葉に、ラビは血が一気に沸騰したかのように頬を染め、意味も無く左右を見渡して状況を把握しようとする。
窓から見える夕日の色も位置も先程と大して変わらず、短い眠りだった事がわかった。
「……う、嘘みたい……でもどうしてさ…」
「誕生日だろ?」
「───マ、マジ…ッ…憶えてくれて…っ…!」
「俺がバカじゃないって事を証明するチャンスだからな」
いつも通り不機嫌そうな横顔を見せる神田に向け、ラビはベッドの上で身を乗り出す。
いくらか汚れたその頬に、指先で触れた。
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