『第一章』
アドリア海を臨む美しい港街で、キャバッローネ・ファミリーは街の秩序を守るマフィアとして、住民から厚い信頼を寄せられていた。
ファミリーの後継者として生まれたディーノも同様で、幼少のみぎりより信頼と尊敬の眼差しを向けられ、誰からも愛されて素直に育つ。常に人々の中心にある事や黄金の髪も手伝って、「アドリア海の太陽」と謳われていた。
そんな彼の人生が大きく変わったのは、十代前半のある日の事だった。父親であるキャバッローネ・ファミリー九代目ボスが大病を患い、病床に伏してしまう。母親亡き後、父親の愛情を一身に受けてきたディーノにとって、それは天地を揺るがすような出来事だった。
幸いにして九代目は助かったが、これから先も病と闘い続けなければならない身となり、ディーノは心密かに「これからはもっと親父の傍にいて、一緒に過ごす時間を増やそう」と誓っていた。
ところが、押し寄せる現実は誓いとはまったく逆の方向に進んでしまう。
ファミリーを継いでマフィアのボスとなるべく、赤ん坊の姿をした奇妙で厳しい家庭教師をつけられ、あまつさえ故郷から遠く離れた学校に放り込まれてしまった。
「リボーンがいないと気楽でいいぜ」
学校に入って、数ヶ月が経った夜の事だった。
ディーノは日付が変わっても眠らずに、宿舎の自室のベッドでごろごろと寝返りを打つ。
ベッドの斜め上にぶら下がっているハンモックが、今夜は空である事が嬉しくて仕方なかった。
気ままな夜がもったいないやら明日の朝が来ないで欲しいやらで、眠る気がしない。
普段そこで寝ているリボーンは、ボンゴレ本部の人間と会うために出かけており、今日は久しく穏やかな一日だった。
そうは言っても、学校でも宿舎でもクラスメイトから「へなちょこディーノ」とさんざん罵られ、つまらない嫌がらせを受けるあたりは、いつもと何ら変わらない。
しいて違いをあげるとしたら、リボーンがいないために火に油を注がれる事がなく、相手が飽きて去るのが普段より早かった…という程度のものだった。
──このまま逃げ出したいとこだけど、脱出にはそれなりの準備が必要だしな…リボーンの奴、出かけるならもっと早く言ってくれりゃいいのにっ
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