不平不満を頭の中で呟いてはみるものの…そう簡単に学校を脱け出せるわけはなかった。計画を練るのは得意で、何度か具体的に考えてみた事はある。物理的には可能に思えた。
 しかし大それたその計画を、実行に移せるだけの意気込みが足りない。
「はぁ……」
 自分の零す溜息にうんざりしながら、ディーノはベッドから足を下ろし、窓に向かう。

 溜息で淀んだ空気を入れ替えたくて、腰窓の鍵を外した。
 音を立てぬようそっと押し開いても、蝶番はキィッと鳴る。
 初夏の爽やかな風が葉音と共に流れ込み、濃い緑の匂いを乗せてきた。
「そういえば満月だったかも」
 そんな気がして空を仰いでも、ディーノの部屋は一階にあるため、景色は最悪だった。
 宿舎の外壁を撫でるほど迫った木々や、高い塀が作る影で空は覆われ、月明かりがちらりと覗いて見えるだけだった。

「!」

 しばし上を見ていたディーノだったが、人の気配を感じて視線を落とす。
 真っ直ぐに前を向いて目を凝らすと、数歩先の木の影が光って見えた。
 まるで冴えた月明かりのような光は、どうやら動いているようだった。鬱蒼とした木々の合間を移動しながら、きらりと輝いている。
「?」
 ふいに光の動きは止まり、それ自体見えなくなった。
 ディーノは争いを嫌うために怖がりだのへなちょこだのと言われていたが、人並みの好奇心は持っている。
 気付けば、考えるより先に窓枠を飛び越えていた。
 光が最後に見えた木を見失わないよう、一点を睨みながら走りだす。

「わぁっ!」

 一点集中は、完全に失敗だった。
 目的地寸前で足を根に取られ、勢いのある上半身はそのまま進み、下半身は置いてけ堀を食ってしまう。
「ぅああぁあぁっ!!」
 ディーノはバタフライでもするかのように両手を上げて、空を掻きながら撃沈した。
「っぅ…!」
 かろうじて顔や頭は庇ったものの、木の根に打ち付けた肘がジーンッと痛む。こんな事になるならさっさと部屋に戻って大人しく寝よう…という気持ちと、痛い思いまでした以上好奇心を満たすまでは戻れないっ!という気持ちがぶつかり合って、最後は後者が勝った。

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HOUSEKI-HIME N