「──…」

 起きているくせに起き上がらないボスをそのままに、俺は墓に足を向けた。

 墓の中の狂女に対し、何ら思うところは無い。
 命日に来る気など更々無かった。
 それでも、XANXUSという男をこの世に産み出してくれたこの日にだけは…感謝して、花を手向けたくなる。

 俺は真っ白な墓標の前に適当に花束を置いてから、再びボスの元に戻った。

「カスが、何しに来やがった」

 ボスはおもむろに瞼を上げると、鳶色の瞳に俺を映す。
 余計な事をするなと怒鳴られるかと思ったが、案外大人しいのは…投げる物が手近に無いせいか? それとも御母堂の前では、多少なりと殊勝なところがあるのか…?

「お前はここにいる気がしてたぜぇ、ボスさんよぉ」
「──わかったような口きいてんじゃねーぞ」
「でも当たってんじゃねぇか」
「テメェ、いつまで俺を見下ろしてやがる」
「……ボス」

 座れと暗に促されて、俺は芝の上に腰を下ろす。
 ああやっぱりおかしい…と、そう思った。
 いつも椅子に座ってふんぞり返ってるくせに、今更斜めな視線を気にするか? そもそも何で殴らないんだ? 手を伸ばせば、俺の首でも顔でも、すぐに届くのに……

 ボスは頭の下に両手を置いたまま、相変わらず寝ころんで空を睨み据えていた。

 真っ青な大空が鳶色の瞳に映って、血の色に変わる。
 事実この男は、ボンゴレの大空をすでに血で染めて…取り返しのつかない道を進んでいる。
 無論、異存などある筈もなく──俺はただボスのためだけに、血の雨を降らせ続ける。

「これ、ルッスーリアに持たされた」

 怒鳴られるなり殴られるなりしないと間が持たなくて、俺はジュラルミンケースを叩く。鍵を外してガチャッと開くと、俄かに視線を感じた。

03>



HOUSEKI-HIME N