俺は水の上で仰向けになりながら、丸い月を眺めていた。
 光の消えたライトが、フェンスと共に水面に影を落としている。
 真面目に泳いでみたり、ただぼんやり浮かんでみたり…夜のプールは淋しいけど、結構いい。

 発情した体を冷ますのに丁度いいし、スクアーロが今どこで何をしているのか──…その争いとか、流される血とか…そういう事について考えるのが怖くて…泳いで無心になってみたりする。

 本人に追及する事はもちろん、ただ自分の中で考えるだけでも……大事な時間が壊れそうだから──

 今は考えない。何も考えたくない。
 スクアーロの大好きな所だけ全部、楽しい事だけ全部。
 それだけで、頭の中を占めていたい──

「!」

 四肢を広げてプカプカと浮いていると、遠くで影が動くのが見えた。
 気配や音はまったく無くて、ゾクッと鳥肌が立つ。

「誰だ…?」

 問いかけた自分の声が、水面を伝って響いた。
 更衣室の方からプールへと、次第に近付いてくる影は細く、しなやかなものだった。

「スクアーロッ!」

 月光を受けて冴えわたる銀の髪が見て取れて、俺は声を上げるなり息をつく。夜目にも眩い髪と、黙っていれば人形のように綺麗な顔が、間近に来てよく見えた。

「う゛ぉ゛ぉ゛ぃテメェは何やってんだぁ!?」

 開口一番唸られて、俺は慌てて体を縦にした。
 プールの底を思い切り蹴って、半分泳ぎながらスクアーロの元に向かう。

 プールサイドの際の際に立った足は剥き出しで…すらりと伸びた脚の先には、水着があった。

「うわぁっ! 水着姿、初めて見た! 一緒に泳ぐのかっ?」
「こっちが訊いてんだぁ! こんな夜中に何してやがるっ!?」
「何って言われても……えぇっと、さっき部屋に行ったんだけど、いないみたいだったから…泳いでただけだぜ」

 俺がそう言った途端、スクアーロは裸足の右足を浮かせる。
 月を背負う体があまりにも白くて…見惚れていると、ドカッ!と頭を踏まれた。

「ぅぁぁっ!」

 頭も体も、水の中に思い切り押し込まれる。
 喉の奥を水に打たれ、ガポガポと空気の抜ける音がした。
 顔も頭も余す所なくとっぷり浸かり、歯の根まで冷えてゆく。

03>



HOUSEKI-HIME N