「う゛ぉ゛ぉ゛ぃい…!」
応接室の扉が閉まった瞬間、スクアーロは独り唸る。
くるりと振り返り、壁に額を当てて拳を握ると、それは勝手に震えだした。
「クソ馬が…っ……人の話を聞けぇぇぇ」
「あらあら、大変ねぇ」
壁にガツガツと当たっていると、応接室とは反対側の廊下から、艶めかしいイントネーションの男の声が聞こえてくる。
「ルッス……」
「お姫様はいいわねぇ、もててもてて羨ましいわぁ」
「あ゛ぁ゛? どこに女がいんだぁ?」
ラウンジの扉を少し開いて覗き見ていたらしいルッスーリアは、巨体ながらにするりと…軽やかに滑り出てくる。筋肉の塊に、けばけばしい羽飾りがもっさりと乗っていた。
「やぁねぇ、スクちゃんの事よぉ」
「ちげぇよ、俺は男で、剣士だっ」
「どっちでもいいけどほんとに羨ましいわぁ、あんな色男が寄ってたかってもぅっ」
「それも違うぜぇ。跳ね馬は俺をかばうことで、ガキの頃の情けねぇ過去を払拭してぇだけだぁ」
事実そう思って口にしてみたものの…記憶の中の幼く愛くるしい顔は、すでに朧げになっていた。甘やかな雰囲気を纏いながらもボス然とした今の顔に塗り替えられてしまい、それがどうにも癪だった。
「あらやだ…そんなふうに思ってるの? あんなに求められてるのにぃ」
「うぜぇし、いらねぇぇ」
スクアーロは何もかも面倒になって、壁にへばりついたまま深々と息をつく。
「じゃあボスはどうなの?」
「──ボスは……跳ね馬にたぶん少し、引け目があるからなぁ」
スクアーロは声を抑えつつ言って、壁の延長線上に寄り掛かったルッスーリアを見据えた。
「俺を所有物として見せつけりゃ、ちったぁ溜飲が下がんだろ。跳ね馬が欲しがるもんなら何でも……別に俺でなくてもいいんだぜぇ。ボスは俺のことなんか……これっぽちも……」
言ってる側から身につまされて、スクアーロはその場にずるずると座り込む。本当にそうだったらどうしようかと思うと…貧血のように血の気がサーッと失せてゆき、首の力が抜け落ちた。
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