俺の記憶が確かなら、ベルは風呂に入る時もこれをかぶっていた筈だった。
けどそれは出先の話で──自室にいる時は違うって事か?
「これなんで落ちねぇのか、何気に気になるんだよな……」
奴に直接「落ちねぇのか?」と訊いたら、「落ちないよ。だって王子だもん」と返されてムカついて終わったが、タネを明かせばおそらく、お得意のワイヤーだろう……
長年の疑問を解く滅多にない機会をフイには出来ず、俺は衣装を置いてティアラを手にした。だが、見た目よりはしっかり重みのあるそれをよくよく調べてみても…ワイヤーも、それがつけられていたような痕跡も見当たらない。
「──謎だぜぇ」
結局のところ謎が余計に深まっただけでスッキリしなかったが、俺はティアラを元に戻そうとした。
けどその時、近くの壁にかけられていた鏡が目に入る。
童話の白雪姫の継母が使っていそうな、なんかこう物々しい感じに豪華なヤツで、俺の腰から上が全部映っていた。
鎖骨が丸見えの結構タイトな黒のニットや、腕に引っかけてるファーコートにまで、ゆるゆる波打った銀髪が幾筋にも分かれて掛かっている。
俺は決してナルシストじゃねぇが、まあ悪くない感じだ。 …とか何とか思っていると、だんだん悪戯心が湧いてくる。
俺はティアラを両手で持って鏡に近付き、頭にそっと載せてみた。
「──…ぅ゛ぉ゛ぉぉい……」
手を下ろした瞬間、小声ながらも思わず唸っていた。
やばい……
自分で「似合いすぎ」とか思っちまったぜぇ──…
「おいカスッ! こんなとこで何モタモタやってんだ!」
ナルシスト疑惑にショックを受けるや否や、背後から突然…愛しいボス様の声がしてきた。
そう言えばこれから出かけるところで、しかも扉を開けっ放しにしてた……
約束の時間はもう過ぎてるような気がする。
「おいっ!!」
わかる……わかるぞ、機嫌の悪い時の声だ。
指輪つきの拳がくるか、デケェ靴裏がくるか、それとも椅子か──とにかく絶対、何かが飛んでくる気がした。
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