「ボス……」
ティアラをかぶったまま恐る恐る振り返ると、部屋の入口に立っているボスと目が合った。
濃い血のような鳶色の瞳がよく見えるくらい、大きく目を見開いているのがわかる。
扉の近くには手ごろな椅子が置かれていたが、ボスがそれを持ち上げることはなく、それどころか拳一つ上げてはいなかった。
「カス……何だ、それは──」
「こ、これは──これはだな……ハロウィンの仮装で…っ!」
ベルの部屋に勝手に入ってティアラをかぶって──しかも鏡を覗きこんでいる姿を見られて、俺は相当に焦っていた。
これ以上どう言い訳してこの場をどう切り抜けようかと……頭をフル回転させて考えている間に、ボスがカカカッとブーツを鳴らして近付いてくる。
そうだよな、近付かないと殴れないよな──いやまさか、飛び蹴りかっ!?
「カス……」
ティアラを慌てて取ろうとした俺の手に、ボスの指が触れた。
不思議なことに、どこも痛くねぇ……
ボスはまるで、「そのままでいい」って言ってるみてぇに俺の手を制して、そっと握って──唇の端を微かに上げた。
「ボス…?」
「お前も捨てたもんじゃねぇな──良く似合ってる」
「──…!!」
驚いて…驚いて驚いて驚くあまり、耳を疑って……言葉が出来なかった。
俺は確かにボスの恋人──いや、愛人とか性奴隷という方が合ってる気がするが、とにかくベッドを共にする関係には違いない。だが、愛の言葉なんてもちろん無く、普通に褒めてもらった事さえろくに無かった。その点ではレヴィ以下の扱いだ。
だが、どうやら聞き間違いではないようだった。
ボスは片手をそっと俺の頬に寄せ、妙にうっとりと…しこたま酒が入った時のような目で見つめてくる。
「お、俺でも……王子に見えたりするかぁ?」
「いや、お前は王妃だ」
「はぁ?」
ほんとに酔っぱらってんのかコイツ……と思ったその時だった。
ボスは掴んでいた俺の手に──あろう事か、キスをした。
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