俺はボスに背中を押すように抱かれながら、開けっ放しの入口に向かっていった。そうしながらもチラッと振り返ると、ティアラを頭に載せてボスの横に立つ自分の姿が、あの鏡に映って見える。
育ちの悪ぃ俺でさえ、何様かに見えたりするから不思議だ。
ボスがベルに甘い最大の理由は…これか?
高貴な血への潜在的な憧れ? もしくはほんとに魔法でもかかってんのか?
「カス、どうかしたか?」
「あ、いや…これが気になってんだ。勝手に持ってくのはさすがにまずいぜぇ」
「構わん、部下の物は俺の物だ。借用を許可する」
「やっ、でもよぉぉ」
ボスは俺の言葉に耳を貸さず、それどころかベルとの接触を避けるようにして足を速めた。「部下の物は俺の物」とか言いながらも、こればっかりはどうにも出来ない品である事を、本当は知っているからだ。
ベルの部屋を出た途端、俺は改めてティアラを押さえた。
やっぱ持ち主のようにはいかねぇ、ちょっと動くとズルッズルッだ。
これは…もしかするとあれか? 俺の血を拒否ってんのか?
「カス、急ぐぞっ! 結婚式だっ!」
「おぉぉぅっ!」
ありえねぇぇぇ! なんか悪ぃもんでも食ったのか!?
極限にありえねぇぇぇが、このさい細かい事はどうでもいい!
ティアラマジックにあやかって、今はとにかく結婚式だっ!
「ボスッ…愛してるぜぇぇ!」
ボスに手を引かれながら、廊下を一気に走り抜ける。
前を行くボスの背中は頼もしいほど広く、手はあまりにもデカい。
俺はもう幸せ過ぎて夢見心地で──
キレたベルに乗り込まれて、結婚式も初夜も台無しにされるという……
最悪に不吉な予感が頭をチラッと掠めても、すぐにポイッと…どこかにやっちまっていた──
Fin
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