「うるせぇよオカマ。治りの遅せー奴が得しててムカツクー」
「文句言ってないで、ほらマーモンちゃん連れて行きなさい」
車椅子のルッスーリアはベルフェゴールの袖を引っ張って言うと、不承不承に従った彼と共に出てゆく。行動の速いレヴィに至っては、すでに廊下を歩きだしていた。
足音と話し声が次第に小さくなってゆく中で、スクアーロは不可解な思いでチェルベッロの二人を交互に見る。
「う゛お゛ぉぃ、何で俺だけ仕事がねぇんだ? 忙しいなら俺も使った方がいいんじゃねぇのかぁ?」
「これは決定事項ですので」
「──ボスの代わりに厳罰食らえってんならそれはまったく構わねぇ。けど年内拘束ってのはどういう意味だ? 二ヶ月だけそうする事に、何の意味があんのかちっとも見えねぇぞ」
「スペルビ・スクアーロ、貴方の身柄は然るべき場所に移させていただきます。間もなく迎えが来ますので、ここで暫くお待ち下さい」
チェルベッロは取り付く島もなく言うと、踵を返して足並みを揃え、開いたままの扉に向かって行った。
「う゛お゛ぉぉぃ!」
声を上げ、車椅子の車輪を多少回した所で意味はなく──扉は左右同時に閉められる。
「何なんだぁ……」
鼻先で閉まった扉を前に溜息をつきながら、スクアーロはキイッと音を立てて方向を変え、そのまま振り返った。
先程までとは打って変わって静寂な空間が広がっており、誰もいない事でやけに広く感じられる。
それから十数分待っても、誰かが来る気配はなかった。
所在なくどうにも居心地が悪かったスクアーロは、練習も兼ねて車椅子を右へ左へと動かしていた。
そうしているうちに、壁に掛けられていた巨大な鏡の前に行き着く。
やや装飾過多ではあったが重厚で美しいフレームの中で、曇り一つない鏡面が全身を映し出していた。
「ミイラはともかく、フランケンシュタインは……」
ベルフェゴールに言われた事を思い出しながら、気付けば車輪が触れるほど近くまで寄っていた。
包帯だらけで、素肌がほとんど見えない顔と体──包帯を換える時には何故かアイマスクを強要され、未だに自分でも見た事が無かったが、左頬に深い傷があるのはわかっていた。
他にも首を始めとして爪先に至るまで、体中のあちこちの皮膚が奇妙に引き攣っている感覚がある。
鮫の歯とメスによってどれほど切り裂かれたのか、考えると薄ら寒くなるものがあった。
──満身創痍だ。これが全部、痕になったら……
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