リング争奪戦以来、初めて家光の声を聞いたスクアーロの体は、甚だしい嫌悪感に満たされる。掴み所のないこの男を早々に抹殺するなり、九代目同様に影を立てられていたらと思うと、己の不甲斐なさも含めて怒りが蘇った。

「家光っ!」

 手元や足首の鎖をガチャガチャと鳴らし、歯を剥いたスクアーロの前に、家光はジェッソと呼んだ人物を伴って近付く。
 部屋の上方から中央の底目掛けて、階段を下りて来た。

「スペルビ・スクアーロ、門外顧問である俺を含め、ここにいる全ボンゴレ幹部がお前たちへの厳しい処罰を望んでいる。無論XANXUSに同情する点はあるが──だからといって免れられるものではない」

 筋肉で覆われた長身の体がスポットライトの下に完全に入ってきて、スクアーロは数段上から見下ろされる。
 その横には菓子の袋を手にした銀髪の少年が立っており、彼は大層美しいながらに、温度の無い冷酷な眼をしていた。

「……?」

 スクアーロは初めて見る少年の顔を凝視し、左目の下にある三つ爪のタトゥーに目を凝らす。手にしていたのはマシュマロの入った袋で、こうしている間も一つ摘まんで口にした。

「家光、そのガキは何だ?」
「お前にとって一番重い罰は、罪を一身に背負って命を奪われることでも拷問を受けることでもないだろう。おそらく、XANXUSの役に立てないことが、一番辛いはずだ」
「……だから何だ? 俺をどうする気だ」
「いずれにしても、お前を殺すことは出来ない。病床にある九代目にXANXUSとヴァリアーへの処分を仰いだところ、ただ一言、『これ以上血を流すな』とだけ言われた──だが、いかに九代目の決定とはいえ、裏切り者を無条件で迎え入れるわけにはいかないというのが、門外顧問と幹部の意向だ」

 家光は重々しく言いながらジェッソという少年の肩に触れ、証言台の真向かいに真っ直ぐ立たせる。
 短い銀髪で細身の少年は、過去のスクアーロに少しばかり似ていたが、その頃スクアーロが持っていた全身から漲るような野心や血に飢えた闘争心は持ち合わせておらず、得体の知れない静の空気を纏っていた。

「オッタビオの報告書や私見など無くとも、お前たちの絆は見て取れる。だからこそ我々は、この天才催眠術師…いや、洗脳師といった方が正しいかも知れないな──…彼によって、お前たちに残酷かつ無血の罰を与えることを決定した」

「残酷かつ……無血の罰だと?」

「ジェッソ、先程話した通りだ。XANXUSという男への意識が極めて強いこの男をどうにか出来れば、お前の実力も明らかになるだろう」
「──スペルビ・スクアーロ、深紅の薔薇のように情熱的な、美しい人……僕の勝負の相手だね」
「催眠術師……が、俺に何をする気だ?」
「僕がボンゴレに迎えられるかどうかの、テストらしいよ」

 拘束されたまま立ち竦むスクアーロに、少年は微笑む。
 柔らかな笑みの中で、瞳だけが凍てついていた。


「──…ねえ、花は好き?」





※「Vita Rosa」序章おわり

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