──序章──
リング争奪戦から八年と少し──フィレンツェで暮らしていた雲雀恭弥は、ボンゴレ特殊暗殺部隊ヴァリアー本部へと密かに呼び出されていた。数年で本部を移動するヴァリアーは現在ベネチアに本部を構えており、秋も深まる今はフィレンツェよりも数段冷え込んでいる。
「急に呼び出して悪かったなぁ、酒でも飲むか?」
「洋酒は飲まない主義だから」
「日本酒もあるぜぇ、跳ね馬が土産にくれたやつな」
「!」
雲雀を呼び出した張本人、ヴァリアー副隊長スペルビ・スクアーロは、罪の無い顔でさらりと言った。三十を過ぎても相変わらずの美貌で、 さらに「飲むだろ?」と訊いてくる。
「要らない。明るいうちから飲む気は無いよ」
「そうかぁ?」
スクアーロは酒以外を出す気は無かったらしく、ソファーに囲まれたローテーブルの上にはグラスだけが置かれており、茶や珈琲が出てくる気配は無い。
「そんなことより早く用件を言ってくれないか。僕は暇じゃないんだ」
目の前のソファーで、行儀悪く斜めに脚を組んで座っているスクアーロに対し、雲雀は鋭い眼力を添えて言った。
しかしながらスクアーロは自分の世界に入っているようで、明後日の方向に溜息をつく。
「実はなぁ…先週任務で日本に行ったら、たまたま跳ね馬に逢ったんだ。そんで山本んちで寿司食ったんだよな。一応旧友だし同盟ファミリーだし、今の状況じゃそりゃー飯くらい食うだろ?」
同意を求めながら顔を向けてきたスクアーロは、いまさら視線に気付いて、何事かと目を瞬かせた。
「ふぅん、あの人…仕事仕事って言ってるわりに、あなたと食事をする時間はあるんだ」
「仕事の合間に飯食うくらいは許してやれぇ──それでとにかく俺は跳ね馬と一緒に美味い寿司を食ったわけなんだが、そん時ベルをホテルに置いたまま呼んでやらなかったんだ。だからアイツへそ曲げちまって……で、こっちに帰って来てからありもしねーことボスにチクられて、話を引っかき回された。おかげでボスが俺と跳ね馬の仲を疑って、いろいろ面倒なことになっちまったわけだ」
組んでいた脚を解いて身を乗り出すスクアーロに向かって、今度は雲雀が溜息をつく。彼に呼び出される時は大抵がこういった話で、大方の予想は出来ていた。
それでも呼び出しに応じてここに来るのは、「戦利品をやる」といって、ヴァリアーでは使わない低級リングを貰えるからに他ならない。
「疑われる方が悪いんじゃない? あの人のことといい山本武のことといい、あなたって意外と八方美人だから」
「う゛お゛おぉぃっ! なんだそれはぁっ!? 俺ほど一途な男はいねぇぞぉぉ!」
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