バーンッ!とローテーブルを叩いて、耳を劈くような声で怒鳴るスクアーロの顔を、雲雀は顎を上げつつ観察していた。
 その顔に常に浮かんで見える「XANXUS命」の文字は今日も変わらず見えていたが、スクアーロ自身にその自覚や自信があり過ぎる為に──ガードが甘く、ともすれば勘違いする男が出そうなものだった。

「──あなたはそのつもりでも、周りは大いに迷惑なんだよ」
「いーや俺は絶対悪くねぇっ、だからお前の口からハッキリと『彼が浮気なんてありえません』とかだな、その自信たっぷりなツラで跳ね馬側から潔白を証明してくれっ! 跳ね馬本人が弁解するより絶対いいはずだし、ボスは俺の言うことには聞く耳持たねぇけど、ヴァリアーに自らスカウトするほど目を掛けてるお前の言う事なら、ちったぁ聞くからな!」
「お断りだね。そういうくだらない用件で僕を呼び出すのはいい加減やめてくれ。どうしてホモの痴話喧嘩の仲裁なんて」
「お前がそれを言うかぁ!? 跳ね馬と一緒に暮らしてんだろうがっ!」

 重厚なはずのテーブルがガタガタと鳴る勢いで言ったスクアーロを睨み下ろし、雲雀は口角を上げる。

「さあどうだろう。もう一週間も逢ってないし、顔も憶えてないよ」
「はあ゛あぁぁっ!? 一週間がなんだってんだっ! 俺なんかボスと八年も逢えなかったんだぞぉ!」
「僕はあなたみたいに気の長い方じゃないからね──今夜も戻って来ないようなら……」
「なんだよ、まさかたった一週間でっ、それくらいで日本に帰るとか言わねぇよなぁ!?」

 銀青色の瞳を大きく見せたスクアーロは、自分の問題はさておき、本気で驚き心配している様子だった。
 そうはいっても彼が気に掛けているのはディーノのことであり──それは雲雀にとって余計なお世話でしかない。

「帰るよ。日本に、というよりは並盛にね──」
「う゛お゛おぉぃ、マジかよっ! 帰って来てお前がいなかったら跳ね馬が泣くぞぉっ! アイツはマフィアのボスなんだぜ、いろいろ事情があるんだって! 信じてもうちょっと待っててやれぇ!」

 あなたに言われなくてもそんなことはわかってる…と口に出しそうになる雲雀だったが、黙したまま立ち上がる。

 ディーノと出逢うまでは、孤独という状況を別段孤独だと感じることもなく、自然に愛していられたはずで──今こうして、独りなんだと感じさせられていることに腹が立った。

「待ってるなんて性に合わない──逢いに行って、三行半を突きつけてくるよ」

 雲雀は唖然とするスクアーロを余所に歩き出し、パチパチと鳴る暖炉の横を抜ける。赤く燃える炎が目に止まって──ふと、八年前の記憶が蘇った。




※「僕の理性が本能に喰い尽くされるその前に」序章おわり

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