※「叙情的に過ぎた時間と不確定な未来へのレクイエム」サンプル

※第一章 「雲雀恭弥の憂鬱」より、一部抜粋




 並盛中心部にある高層ホテルの最上階、プレジデンシャルスイートをいつも通り押さえていたディーノは、部屋に入るなり電話を受ける。
 それはロマーリオからの物で、彼は今の状況をかいつまんで説明し始めた。無論日本語を使っており、会話の内容がわからないスクアーロはうろうろと歩き出す。

「夢にしちゃやけにリアルだぞぉ、つーかすげぇ部屋だな」

 マフィアを目指しているという段階の学生に過ぎないスクアーロは、二百平米を超える豪華なスイートルームに感嘆しつつ、一時もじっとしていなかった。
 ディーノが居る広大なリビングを抜けて会議室や書斎を覗き込み、展望バスルームを見て「う゛お゛おぉっ!」と声を上げたかと思うと、ディーノと雲雀が使う予定のベッドルームにまで入り込む。

「う゛お゛おぉぃ、すげぇぞぉ……天蓋付きベッドなんて初めて見たぜぇ、しかもキングサイズッ!」

 見るだけならまだ……と思っていた雲雀だったが、相変わらず夢だと思っているらしいスクアーロの行動は、そんなものでは終わらなかった。いきなり助走をつけて走り出すと、綺麗にメイキングされたベッドに向かって行く。

「ちょっと君っ」
「う゛お゛ぉっ、すげぇふっかふかぁぁ!」

 最高級アイダーダックの羽毛布団の上に制服姿でダイブしたスクアーロは、ふんわりと軽いそれに包まりながらゴロゴロと転がり始める。そうしながらベッドの広さを堪能して、最後は乱れた布団の上で仰向けになった。

「ふはぁ……気持ちぃぜぇ、今夜はここで寝れんのかぁ?」
「──君、咬み殺されたいみたいだね」

 もうダメだ我慢出来ない……と思いトンファーを取り出し掛けた雲雀は、そもそも何故我慢しているのかという疑問に行き着く。相手は子供とはいえすでに剣士として名を馳せているはずで、遠慮する必要などまったく無いことに気付いた。

「なあ、これほんとに夢かぁ?」
「!」

 雲雀が憤りに燃えている間に、スクアーロはいつの間にか起き上がって自分の腕を見ていた。ベッドルームは広いため雲雀の立っている入口とは距離があり、最初は何をしているのかわからなかったが──どうやら袖の中の包帯を捲って、傷を確認しているようだった。

「ん゛ー? 昨日負ったやつがそのまんまだ。触ると痛ぇし、ちょっと血も出てんなぁ……」
「その痛みの通りこれは現実だよ。君は十年後の世界に飛ばされて来たんだ」
「あ゛ぁ?」
「過去にどういう関係だったか知らないけど、あの男はもう君の物じゃない。だから気安く触らないでくれる?……って言ってもわからないだろうけど」

 雲雀はすべて日本語で言うと、引っ掻き回されたベッドに近付く。途中には空と並盛町を望む嵌め込み窓があり、雪が降りそうで降らないブルーグレーの夜空が見えた。

「ここはジャッポーネだよなぁ? ぅお゛、鉄の味」

 腕の傷口をぺろりと舐めて、味覚があることを確かめているスクアーロに、雲雀は何も答えなかった。
 トンファーを取り出すことは簡単で、邪魔で仕方の無いスクアーロを叩きのめしたい衝動があるにもかかわらず、黙したまま睨み下ろす。



02>




HOUSEKI-HIME N