「おいそこのジャッポネーゼ、黙ってないで何とか言えよ。イタリア語通じてるんだろぉ?」

 スクアーロはホテルに来て落ち着いたことでリアリティを感じているらしく、車内に居た時とは表情を変えていた。
 夢が夢で無くなればこの状況は受け入れ難いものに違いなく、銀青色の瞳に警戒と不安の色が浮かび上がる。

「──…心配しなくても、そのうち元の世界に戻れる」
「元の世界?」
「この部屋を使っていいよ。その代わり大人しくしてて」
「おいっ!」

 雲雀はまだあまり自信の持てないイタリア語で告げると、手を伸ばしてくるスクアーロに指一本触れさせることなく踵を返した。ベッドに座っている彼はさらに何やら叫んでいたが、最早言葉が頭に入ってこない。過去のディーノが好んだ綺麗な顔を、トンファーでめちゃくちゃに殴って血塗れにしてやりたい思いを、内に秘めたプライドによって抑えていた。
 交際相手の男を巡って誰かと対立するなど許せることではなく、むしろ情けを掛けるしか無かった。

「恭弥っ!」

 ベッドルームの入口に戻った途端ディーノが現れ、雲雀は意識的に表情を消す。自分が今どんな顔をしているか正確に把握出来てはいなかったが、何か醜いものが浮かび上がっている気がしていた。

「恭弥、スクアーロを見ててくれてありがとなっ」
「──…」

 彼のことで貴方に御礼を言われることがどれだけ嫌かわからないの?と問いたい気持ちでいっぱいの雲雀に向かって、ディーノは握っていた携帯電話を突き出す。

「アイツに連絡したんだけど、なんか……お前に替わってくれって。悪ぃけど出てもらえるか?」
「……?」
「アイツが……XANXUSが恭弥と話したいって」

 ディーノは遠く離れたベッドに目をやりながら、限界まで声を潜めた。運命を大きく変えないためにはXANXUSという名は伏せるべきで、それは雲雀も承知している。



「──僕に何の用?」


 雲雀は受け取った携帯に耳を当て、ディーノと入れ替わりにベッドルームを出た。そうしながらも彼の背中を目で追って、廊下の壁際で足を止める。

『雲雀恭弥、久し振りだな』

「無駄な挨拶はいいよ。用件は何?」

『うちのカスが面倒を掛けているらしいな』

「うちのカス? 残念ながら違うよ。今の彼は貴方の物でも何でもない」

『そんなに嫉妬を剥き出しにするな』

「──電話、切られたいの?」

『いや、お前に頼みたいことがある』

「!」

 ディーノの携帯から聞こえてくるのは確かにXANXUSの声だったが、その言葉は耳を疑う物だった。




※「叙情的に過ぎた時間と不確定な未来へのレクイエム」サンプルおわり

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